オフィスのレイアウト変更は、設備担当者にとって腕の見せ所であると同時に、頭の痛い問題でもあります。特に、パーテーションの設置に伴うコンセントの増設や、部署移転による電話線・LAN配線の引き直しが絡むと、事はさらに複雑になります。
「ちょうど付き合いのある電気屋さんがいるから、全部まとめてお願いしよう」
「弱電も強電も、同じ電気工事だから大丈夫だろう」
そう考えて、いつも依頼している業者に一括で発注した担当者の方の話です。工事は滞りなく終わったように見えましたが、数日後、特定の部署から「パソコンの通信が頻繁に途切れる」「電話にひどいノイズが入る」といったクレームが続出しました。
原因を調査すると、新設したコンセントの電源ケーブルとLANケーブルが、壁内で束ねられて配線されていたことが判明。専門外の業者が、互いの電気が干渉し合うリスクを知らずに工事を進めてしまったのです。結局、LAN配線を引き直すために、別の専門業者を探して追加で依頼することに。二重のコストがかかっただけでなく、業務に支明が出てしまい、関係各所への謝罪に追われるという苦い結果に終わりました。
■ まずは基本から。プロが解説する弱電・強電工事の根本的な違い

「弱電」と「強電」。どちらも電気を扱う工事ですが、その性質は全く異なります。例えるなら、強電は建物の全身にエネルギーを送り込む「血管」、弱電は情報を正確に伝達するための「神経」です。これらを混同することは、事業の安定稼働を脅かすリスクに直結します。
ここでは、両者の根本的な違いを4つのポイントから整理します。
・1. 電圧の違い
一般的に、60ボルトを境に区別されます。60ボルト以上の高い電圧を扱うのが「強電」、それ以下の低い電圧で動くのが「弱電」です。この電圧の差が、人体への危険度や設備の取り扱いに大きな違いを生みます。
・2. 目的と役割の違い
強電工事の目的は、電力会社から送られてくる高い電圧の電気を、建物内で安全に使えるように変換し、照明やコンセント、空調設備といった動力源にエネルギーを供給することです。まさにインフラを支える根幹部分と言えます。
一方、弱電工事は電話やインターネット、防犯カメラ、火災報知器といった情報通信・制御設備を扱います。目的は、微弱な電気信号を使って情報をやり取りすることです。
・3. 扱う設備の違い
具体的に扱う設備を比べると、その違いはより明確になります。
【強電工事の対象設備】
受変電設備(キュービクル)、分電盤、幹線設備、コンセント、照明、動力設備など
【弱電工事の対象設備】
電話設備、LAN設備、インターホン、テレビ共聴設備、防犯カメラ、火災報知器など
・4. 必要な資格の違い
人体に危険を及ぼす可能性のある強電工事は、法律で定められた「電気工事士(第一種・第二種)」の資格を持つ者でなければ行うことができません。無資格での作業は法律違反となります。対して弱電工事は、必ずしも電気工事士の資格が必要とされるわけではありませんが、LAN配線や電話工事など、専門分野に応じた資格や知識が求められます。
■ なぜ両者を厳密に区別するのか? 安全と品質に関わる3つの理由

「資格さえ持っていれば、どちらの工事もできるのでは?」と感じるかもしれません。しかし、専門業者が弱電と強電を厳格に区別して扱うのには、明確な理由があります。それは、事業運営に欠かせない「安全」「品質」「将来性」を守るためです。
・理由1:感電・火災リスクを回避するため
強電設備は、扱いを間違えれば感電や火災といった重大事故に直結します。そのため、電気事業法などの法律で、ケーブルの種類や太さ、配線方法、保護装置の設置などが厳しく定められています。これらの安全規格を遵守するには、強電ならではの専門知識と経験が不可欠です。
・理由2:通信品質や機器の安定稼働を守るため
電源ケーブルの周りには、常に磁場が発生しています。この磁場が、近くにある弱電の通信ケーブルに影響を与え、ノイズ(電磁誘導ノイズ)を発生させます。これが、先ほどの失敗事例のように「通信が遅くなる」「音声が乱れる」といったトラブルの直接的な原因です。プロの業者は、双方のケーブルを30cm以上離して配線するなど、干渉を防ぐためのルールを徹底して守ります。
・理由3:将来の拡張性やメンテナンス性を確保するため
適切な設計のもとでは、強電と弱電の配線ルートは系統立てて整理されています。これにより、将来的なレイアウト変更や設備の増設、あるいはトラブル発生時の原因究明がスムーズに行えます。両者が無秩序に混在していると、少しの変更でも大規模な改修が必要になったり、メンテナンスのたびに時間とコストがかさんだりする原因となります。
■ 実際にあった!電気工事業者の選定で後悔する3つの典型パターン
弱電と強電の違いを理解していても、業者選びの段階でつまずいてしまうケースは後を絶ちません。ここでは、多くの担当者が陥りがちな失敗パターンと、それを回避するための視点について解説します。
・パターン1:「専門業者への分離発注」で工期遅延
弱電と強電、それぞれの専門性を重視するあまり、別々の業者に工事を依頼するパターンです。一見、確実な方法に見えますが、業者間の連携がうまくいかないと思わぬ落とし穴にはまります。互いの工事範囲のすり合わせが不十分で「言った・言わない」の責任の押し付け合いが始まったり、工程の調整がつかずにお互いの作業待ちが発生したり。結果的に、全体の工期が大幅に遅延してしまうケースは少なくありません。
・パターン2:「コスト最優先」で無資格業者に依頼
相見積もりを取った際に、提示価格の安さだけで業者を決めてしまうのも危険です。特に注意が必要なのが、本来は有資格者でなければ行ってはいけない強電工事を、資格を持たない作業員が行ってしまうケースです。その場は安く済んだとしても、施工不良が原因で漏電や火災などの事故が発生すれば、事業の存続に関わる甚大な損害につながります。
・パターン3:「図面作成・申請業務の軽視」で手戻り発生
ある程度の規模の電気工事では、施工前の詳細な図面作成や、電力会社への申請業務が必須となります。経験の浅い業者だと、このプロセスを軽視したり、知見がなかったりすることがあります。工事が進んでから不備が発覚し、設計変更や再申請が必要になれば、大幅な手戻りと追加費用が発生します。単に「工事ができる」だけでなく、関連業務全体をスムーズに遂行できるかも重要な選定基準です。
■ 失敗しないために。信頼できる電気工事業者を見極める5つの条件
では、どうすれば自社の重要なインフラを安心して任せられる業者を見つけられるのでしょうか。単に安い、早いというだけでなく、長期的な視点で事業の安全を託せるパートナーを選ぶためには、以下の5つの条件を確認することが重要です。
弱電・強電双方の豊富な施工実績があるか
Webサイトなどで、それぞれの分野での具体的な施工実績を確認しましょう。特に、病院や公共施設、工場といった、高い安全性と信頼性が求められる建物の実績が豊富であれば、技術力の高さを測る一つの指標になります。
設計から施工、保守まで一貫対応できるか
工事だけでなく、事前の計画や設計段階から相談に乗ってくれる業者は信頼できます。さらに、施工後のメンテナンスや緊急時のトラブル対応まで一貫して任せられる体制があれば、長期的に安心して付き合うことができます。
有資格者が多数在籍し、安全管理体制が明確か
第一種電気工事士をはじめとする国家資格保有者がどれだけ在籍しているかは、会社の技術力を示す客観的なデータです。また、安全大会の実施やISO認証の取得など、会社として安全管理にどう取り組んでいるかを明示しているかどうかも確認しましょう。
地域に根差し、迅速な対応が期待できるか
電気設備のトラブルは、時に事業全体をストップさせてしまう緊急事態です。そんな時に、近隣に拠点を持ち、地域事情をよく理解している業者であれば、迅速な駆けつけ対応が期待できます。
課題に対し、専門家としての改善提案をしてくれるか
「言われたことだけをやる」のではなく、現状の課題をヒアリングした上で、「将来を見据えて、このような配線設計にしてはいかがですか」「この設備を導入すれば、省エネにも繋がります」といったプラスアルファの提案をしてくれる業者は、真のパートナーとなり得ます。自社の事業継続を支える電気設備の全体像について詳しく知りたい方は、一度専門家の視点からアドバイスを受けてみることをお勧めします。
https://www.arumik.co.jp/feature
■ 最適なパートナー選びが、事業の安全な未来をつくる
ここまで、弱電工事と強電工事の根本的な違いから、業者選びで失敗しないためのポイントまでを解説してきました。重要な点を改めてまとめると、「両者の違いを正しく理解し、それぞれの専門知識と技術を併せ持ち、ワンストップで対応できる業者を選ぶこと」が、リスクを回避し、将来的なコストを抑えるための最も確実な方法であるということです。
コンセントの増設一つ、LANケーブルの配線一本をとっても、その裏には事業の安全と継続性を支えるための専門的な知識とルールが存在します。場当たり的な対応を繰り返すのではなく、自社の設備全体を長期的な視点で見てくれる信頼できるパートナーを見つけること。それが、担当者自身の安心につながり、ひいては会社の未来を守ることにもなるのです。
電気設備に関するお悩みや、どこに相談して良いか分からない課題があれば、まずは気軽に専門家に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

