「ウチは大丈夫」が一番危ない。受変電設備の突然の故障が招く甚大な被害とは

年に一度の受変電設備の法定点検。作業が終わり、業者から差し出された報告書には「特記事項なし」の文字。


「いつものように、特に異常はありませんでした」

「細かい数値はこちらの通りです。ではサインをお願いします」


専門用語が並んだ資料を早口で説明され、すべてを理解できないまま「プロが言うなら大丈夫だろう」とハンコを押す。そしてまた来年、同じことの繰り返し。


「この点検、本当に意味があるのだろうか…」

「もし、この『異常なし』という言葉の裏で、見えない劣化が静かに進行していたとしたら…」


口には出せずとも、多くの総務・施設担当者の方が、こうした漠然とした不安や、点検の形骸化に対する疑問を心のどこかで感じているのではないでしょうか。その「お任せ」の姿勢が、将来の大きなリスクに繋がりかねないのです。




■ なぜ点検は義務なのか?「法律」と「事業継続」2つの重要性

そもそも、なぜ受変電設備の点検は法律で義務付けられているのでしょうか。その理由は大きく二つあります。一つは「法律上の責務」、もう一つは「事業を守る」という経営上の責務です。


まず、高圧の電気を利用するすべての施設は、電気事業法により、設備の安全性を維持するために定期的な保安点検を行うことが定められています。これは、自社の安全確保はもちろん、万が一の事故で近隣施設まで停電させてしまう「波及事故」を防ぐための社会的な責任でもあります。


一般的に、点検には以下の2種類があります。



・月次点検(または隔月点検)

施設を停電させずに、設備の運転状態を外から確認する点検です。外観の異常、異音や異臭、油漏れの有無などをチェックし、トラブルの予兆を早期に発見することを目的とします。



・年次点検

施設全体を停電させて、普段は見ることができない設備の内部まで詳しく検査する精密点検です。機器の清掃やネジの増し締め、絶縁抵抗測定などを行い、設備の健全性を詳細に診断します。


そしてもう一つの重要な側面が、BCP(事業継続計画)です。もし設備の不具合で突然の長期停電が発生すれば、事業は完全に停止します。生産ラインは止まり、データは失われ、顧客からの信用も失墜するでしょう。定期的な点検は、そうした最悪の事態を未然に防ぎ、事業の継続性を確保するための、極めて重要なリスクマネジメントなのです。




■ 点検報告書の「見るべき」ポイント。プロはココを確認している

「点検業者なら、どこに頼んでも同じだろう」と考えるのは早計です。ただマニュアル通りに項目をチェックして「異常なし」と報告するだけの業者と、未来のリスクまで見据えた診断を行う業者とでは、報告書の質が全く異なります。


価値ある点検報告書には、単なる結果だけでなく、設備の「健康状態の推移」が記録されています。例えば、絶縁抵抗値や変圧器の油温といった測定データが、ただ記載されているだけではありません。過去のデータと比較され、「数値が年々、徐々に低下傾向にある」といった経年変化がグラフなどで可視化されています。


プロの担当者は、この「変化の兆候」を見逃しません。そして、質の高い業者であれば、その兆候に基づき、

「この部品は、劣化が進んでいるため3年以内に交換を推奨します」

「現在の負荷状況を鑑みると、こちらの変圧器は将来的に容量不足となる可能性があります」

といった、具体的な指摘と将来を見据えた改善提案まで行ってくれます。


報告書の「要観察」や「交換推奨」といった文言は、設備の健康診断における「精密検査のススメ」です。その指摘の意味を正しく理解し、業者と共に対策を検討していくことが、担当者の重要な役割となります。




■ 「あの時ちゃんと見ておけば…」点検を軽視した企業の末路


「大丈夫だろう」という小さな油断や見て見ぬふりが、取り返しのつかない事態を引き起こすことがあります。これらは、受変電設備の点検を軽視した企業で実際に起こった、決して他人事ではない話です。



・事例1:コスト削減を優先し、波及事故で多額の賠償責任

経費削減のため、長年付き合いのあった業者から、とにかく料金の安い業者へと点検を切り替えた製造工場。しかしある日、自社の設備が原因で大規模な波及事故が発生。調査の結果、格安業者の点検担当者が無資格者であり、機器の重大な劣化の兆候を見逃していたことが判明しました。近隣工場への損害賠償も含め、その代償は削減したコストをはるかに上回るものとなりました。



・事例2:報告書の指摘を放置し、繁忙期に生産ラインが停止

点検業者から「変圧器の油が劣化しているため、早めの交換が必要です」という指摘を受けていたものの、「まだ動いているから」と対応を先延ばしにしていた食品工場。最も生産が忙しい時期に、その変圧器が故障し、工場は全面停電。復旧の目処も立たず、納期遅延による取引先からの信用失墜と、莫大な機会損失を被ることになりました。



・事例3:旧来の関係性に甘え、無駄な電気料金を払い続ける

創業時から付き合いのある業者に、長年点検を任せきりにしていたあるオフィスビル。業者も言われたことだけをこなすだけで、設備の最適化に関する提案は一切ありませんでした。後に別の専門家に診断してもらったところ、現在の電力使用状況に全く合っていない非効率な設備を使い続けており、省エネ性能の高い最新設備に更新していれば、年間数百万円の電気料金を削減できたことが発覚しました。


これらの悲劇は、もし担当者が点検の重要性を正しく理解し、信頼できる専門家による「質の高い点検」を受けていれば、防げたものばかりです。




■ 事業の未来を守るために。信頼できる保守点検パートナーの選び方


では、自社の重要な資産と事業の未来を安心して託せるパートナーは、どのように見つければよいのでしょうか。単に点検項目をこなすだけでなく、真に頼れる業者を選ぶためには、以下の5つの基準を確認することをお勧めします。



【実績】公共施設など、高い信頼性が求められる保守実績は豊富か

Webサイトなどで、年間の保守点検実績件数や、具体的にどのような施設の保守を担っているかを確認しましょう。特に、病院や官公庁、データセンターといった、絶対に電力を止められない施設の保守実績が豊富であれば、その技術力と信頼性は非常に高いと判断できます。



【技術力】有資格者がチームで対応する専門家集団か

点検は、電気主任技術者をはじめとする国家資格保有者が責任をもって行う必要があります。個人の技術力に依存するのではなく、会社として複数の有資格者を擁し、チームで多角的な視点から診断・サポートしてくれる体制があるかどうかが重要です。



【提案力】点検結果から、未来を見据えた提案ができるか

その場限りの「異常なし」報告で終わらず、点検データに基づいて長期的な修繕・更新計画を立案してくれたり、省エネ化や補助金の活用といった、経営改善に繋がるプラスアルファの提案をしてくれたりする業者は、真のパートナーとなり得ます。



【一貫性】点検から緊急対応、改修工事まで任せられるか

点検で見つかった不具合への対応や、将来的な大規模改修が必要になった際、点検とは別の業者を探すのは大変な手間です。点検から修理、工事までワンストップで対応できる業者であれば、窓口が一本化され、スムーズで責任の所在も明確な対応が期待できます。



【対応力】地域に密着し、緊急時に迅速な対応が可能か

電気設備のトラブルは、まさに時間との戦いです。自社の施設があるエリアに拠点を構え、地域の事情にも精通している業者であれば、万が一の緊急事態にも迅速に駆けつけてくれるという安心感があります。


自社の事業継続を盤石にするための、質の高い電気保安管理とはどのようなものか、一度その詳細を確認してみることをお勧めします。

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■ 受変電設備点検はコストではない。未来への「投資」である


ここまでお読みいただき、受変電設備の点検が、単に法律で定められた義務を果たすためだけの作業ではないことをご理解いただけたかと思います。質の高い点検は、事故という最悪のリスクを回避するだけでなく、設備の寿命を延ばし、エネルギーコストを最適化し、事業の継続性を高めるための、極めて合理的な「未来への投資」なのです。


「業者に任せきり」という不安な状態から、「事業を守る主体的な管理者」へ。その意識の転換が、担当者であるあなた自身と、会社の未来を守る大きな力となります。


今、自社が受けている点検に、心から満足し、安心できているでしょうか。もし少しでも疑問や不安を感じるのであれば、現在の点検内容が本当に適切なのか、セカンドオピニオンを求めてみるのも一つの有効な手段です。まずは専門家に、現状の悩みや課題を相談してみてはいかがでしょうか。

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