洗濯機や電子レンジ、冷蔵庫といった家電製品の電源プラグを見ると、通常の2本の刃のほかに、緑と黄色の細い線が伸びていることにお気づきでしょうか。また、エアコン用のコンセントなどには、差し込み口が3つあるタイプもあります。これが「アース線」と「アース端子」です。
「繋がなくても使えているし、一体何のためにあるのだろう?」と、その役割をよく知らないままにしている方も少なくないかもしれません。しかし、このアース線は、私たちの安全を守るために非常に重要な役割を担っています。
万が一、家電製品が故障して電気が外に漏れ出してしまった場合、このアース線が繋がっているかどうかが、感電や火災といった重大な事故を防ぐための分かれ道になるのです。特に、水回りで使う家電や、消費電力の大きい家電においては、安全装置として欠かせない存在です。
この記事では、あまり知られていないアース線の基本的な役割から、どのような家電になぜ必要なのか、そしてご自宅のコンセントにアース端子がない場合の対処法や工事の費用まで、一つひとつ丁寧に解説していきます。安全な家電利用のための大切な知識です。
アース線の役割は、万が一の電気を地面に逃がす「通り道」
アース(earth)とは、地球や地面を意味する言葉です。その名の通り、アース線の主な役割は、電化製品から漏れ出してしまった電気を、安全に地面へと逃がすための通り道になることです。もしもの時に備える、電気の安全装置と考えると分かりやすいでしょう。その仕組みを理解するために、まずは「漏電」について知る必要があります。
家電の故障で起こる「漏電」とは
通常、電気は製品内部の決められた回路の中だけを流れています。しかし、内部の部品が長年の使用で劣化したり、水がかかって故障したりすると、電気が本来のルートから外へ漏れ出してしまうことがあります。これが「漏電」です。漏電した家電の金属部分などに人が触れると、その漏れた電気が私たちの体を通って地面に流れようとします。これが「感電」です。特に、お風呂場やキッチンなど、体が濡れている状態では電気は非常に通りやすくなるため、感電すると命に関わる重大な事故につながる恐れがあります。
アース線が感電や火災を防ぐ仕組み
アース線は、あらかじめ家電製品の金属部分と、地面に繋がっているコンセントのアース端子を結びつけておきます。もし漏電が発生しても、電気には「より流れやすい方へ流れる」という性質があるため、人の体よりもはるかに電気抵抗の小さいアース線を優先して通り、安全に地面へと流れていきます。これにより、人が触れても感電するリスクを大幅に減らすことができるのです。
さらに、アース線に大きな漏電電流が流れると、多くの家庭の分電盤に設置されている「漏電ブレーカー(漏電遮断器)」がそれを検知して、自動的に電気を遮断する仕組みになっています。これにより、感電を防止すると同時に、漏電が原因で起こる火災(漏電火災)も防ぐことができます。アース線は、漏電ブレーカーと連携することで、二重に私たちの安全を守ってくれているのです。
特にアース接続が重要な家電製品とその理由
法律(電気設備の技術基準)でも、特定の環境で使用する家電製品にはアース線の接続が強く推奨、あるいは義務付けられています。それは、特に感電や漏電のリスクが高いと考えられる製品だからです。具体的にどのような家電が該当するのか、その理由とともに見ていきましょう。
①水気や湿気の多い場所で使う家電
洗濯機、食器洗い機、温水洗浄便座、そして冷蔵庫などがこれにあたります。井戸から水を汲み上げるための電動ポンプなども同様です。水は電気を通しやすい性質があるため、キッチンや洗面所、トイレといった水回りで使用する家電は、万が一漏電した際に感電事故につながるリスクが格段に高くなります。また、湿気が多い場所は、家電内部の電子部品や配線の劣化、腐食を進めやすく、漏電そのものを引き起こす可能性も高まります。そのため、二重の安全対策としてアース接続が不可欠とされているのです。冷蔵庫は、内部の冷却器に霜がつき、それが溶けて水になるため、水回りの家電と同様に扱われます。
②消費電力が大きく、構造が複雑な家電
エアコンや電子レンジ、電気衣類乾燥機などが代表的です。これらの家電は、内部の構造が複雑で、大きな電力を消費するため、内部部品にかかる負担も大きくなります。使用頻度が高く、長年使うことで部品が劣化し、漏電に至る可能性もゼロではありません。特にエアコンの室外機のように屋外に設置されるものは、雨風に直接さらされるため、さらに厳重な安全対策が求められます。電子レンジも、高圧の電気を発生させる装置が内蔵されているため、アース接続が強く推奨されています。
③その他、アース接続が推奨されるもの
例えば、デスクトップパソコンなどの精密機器もアース接続が推奨されることがあります。これは感電防止という主目的よりは、漏電や静電気などによる内部回路の誤作動やデータ破損を防ぐ目的もあります。また、電気自動車(EV)の充電用コンセントなど、高電圧を扱う設備にもアースは必須です。お手持ちの家電製品の取扱説明書にアースに関する記載があれば、それはメーカーが安全上の理由から接続を推奨している証拠です。説明書の指示に従い、正しく接続することが大切です。
コンセントにアースを繋ぐ場所がない!そんな時の対処法
いざアース線を繋ごうと思っても、壁のコンセントに緑色のネジ(アースターミナル)や、3つ目の差し込み穴がない。そんなケースも少なくないでしょう。特に、築年数の古い建物では、アース端子がないコンセントが一般的でした。しかし、だからといってアース線を繋がないまま放置したり、自己流で無理に接続したりするのは非常に危険です。安全にアースを接続するためには、専門家による適切な電気工事が必要になります。
アース端子付きコンセントへの「交換工事」
最も一般的で確実な方法が、既存のコンセントをアース端子付きのものに交換する工事です。この工事が可能かどうかは、そのコンセントの裏側まで、アース線が来ているかどうかにかかっています。比較的新しい建物であれば、壁の内部までアース線は配線されているものの、コスト削減などの理由で、最終的なコンセント器具だけがアース端子なしのタイプになっている場合があります。このケースであれば、コンセント本体を交換するだけの比較的簡単な作業で対応できます。しかし、壁の内部までアース線が来ていない場合は、後述するアース線の新設工事が必要になります。
アース線を新たに引く「新設工事」
壁の内部にアース線が来ていない場合は、新たにアース線を引いてくる必要があります。その方法はいくつか考えられます。一つは、エアコン用コンセントなど、近くにアース端子付きのコンセントがあれば、そこからアース線を分岐させて持ってくる方法です。もう一つは、分電盤(ブレーカーが集まっている箱)までアース線が来ている場合に、そこから目的のコンセントまでアース線を延長してくる方法です。これらの工事は、壁の中や天井裏に配線を通す作業が必要になるため、交換工事に比べて手間と時間がかかります。
地面にアース棒を埋設する「D種接地工事」
建物自体にアースの設備がない、あるいは分電盤までアース線が来ていない古い建物などの場合に行われる、最も本格的な工事です。これは、銅などでできた「アース棒(接地極)」と呼ばれる金属の棒を、建物の屋外の地面に深く打ち込み、そこからアース線を屋内のコンセントまで引き込むというものです。これにより、建物に新たなアースの基点を作ることができます。電気工事の専門用語では「D種接地工事」と呼ばれ、確実な安全性を確保するための最終手段とも言える方法です。
安全を確保するための工事。気になる費用とその内訳
アース付きコンセントの設置工事には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。工事の内容は、ご自宅の電気設備の状況によって大きく変わるため、費用も一概には言えません。ここでは、工事のパターン別に、費用の目安とその内訳について解説します。
①コンセントの「交換」ですむ場合の費用
壁の内部までアース線が既に来ている場合に、コンセント本体をアース端子付きのものに交換するだけの工事です。これは比較的簡単な作業で、費用は「新しいコンセントの部品代」+「作業費・出張費」で構成されます。総額で1万円前後からが一般的な相場です。作業時間も30分から1時間程度で完了することが多いでしょう。複数の箇所を同時に依頼することで、1箇所あたりの費用を抑えられる場合もあります。
②アース線を「新設」する場合の費用
壁の内部にアース線を新たに引いてくる工事です。近くのコンセントや分電盤から配線を持ってくる場合、その距離や、壁の中を通す作業の難易度によって費用は大きく変動します。配線作業が伴うため、交換工事よりも高額になり、2万円〜数万円程度かかることもあります。隠蔽配線できれいに仕上げるか、露出配線でコストを抑えるかなど、工法によっても料金は変わってきます。
③アース棒を「埋設」する場合の費用
地面にアース棒を打ち込む本格的な「D種接地工事」が必要な場合は、費用も最も高額になります。地面を掘る作業や、屋外から屋内への配線引き込みなど、大掛かりな作業となるためです。建物の立地条件や土壌の状態によっても作業の難易度は変わりますが、一般的には数万円以上の費用がかかると考えておくと良いでしょう。
いずれの工事も、正確な費用は専門家による現地調査なしには判断できません。必ず事前に複数の業者から見積もりを取り、工事内容と費用に納得した上で依頼することが大切です。
どのような業者が、どのような考えで日々の工事に取り組んでいるのか、その姿勢を知ることも、安心できる依頼先を見つけるための一助となるかもしれません。
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目に見えない電気のリスクに備え、安心できる住環境を整える
アース線の役割と、その重要性について解説してきました。普段はあまり意識することのない、あの緑色の線が、万が一の感電や火災といった「目に見えないリスク」から、私たちの暮らしを静かに守ってくれていることを、ご理解いただけたかと思います。
特に、水気や湿気の多い場所で使う家電にとって、アース接続は命綱とも言える存在です。家電製品の取扱説明書にアース接続に関する指示があるのは、メーカーがその製品を安全に使ってもらうために、どうしても伝えておきたい大切なメッセージなのです。
「繋がなくても動くから」と、そのメッセージを無視してしまうのは、シートベルトをせずに車を運転するようなものかもしれません。普段は何も起きなくても、いざという時に、その備えの有無が結果を大きく左右します。
ご自宅のコンセントにアース端子がない場合でも、諦める必要はありません。適切な工事を行うことで、安全な環境を整えることは可能です。ご家族の安全と、大切な住まいを守るための設備投資として、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。もし、ご家庭の電気設備の安全性について、少しでも不安な点があれば、まずは専門家に相談することから始めてみてください。